経緯
私は IT エンジニアながら近年はバックオフィス寄りの業務を行う機会が増えた.その中の一つに法務担当者の知財業務のサポートがある.例えば,同業他社の特許公報を読み,その内容について法務担当者や社外の専門家と議論する機会がある.
現職で業務上関わることになる知財はソフトウェアが主である.知財関連業務の責任者は法務だが,法務はあくまで法律の専門家であり,必ずしもソフトウェアやエンジニアリングについて詳しいわけではない.知財を法務のみが確認していると見落としや考慮漏れが発生する可能性があるため,対策として私を含めたソフトウェア開発の知見を持った人員を交えて知財を多面的に検討する運びとなり部署横断のチームが組成された.
こうした経緯もあり知財関連の知識を体系的に身に付けたくなったため知的財産管理技能検定 (3 級) を受けることにした.
知的財産管理技能検定とは
国家試験である.私が受検した等級区分 3 級について知的財産教育協会のページから引用する.
知的財産管理の職種における初級の技能者が通常有すべき技能及びこれに関する知識の程度(知的財産管理に関する業務上の課題を発見し、大企業においては知的財産管理の技能及び知識を有する上司の指導の下で、又、中小・ベンチャー企業においては外部専門家等と連携して、その課題を解決することができる技能及びこれに関する初歩的な知識の程度)を基準とする。
知財に関する初歩的な技能および知識を獲得することで試験に合格できるため,初学者の教材に適していると考えられる.そして試験に合格すると三級知的財産管理技能士の資格を得られる.実務は弁理士や弁護士といった専門家に任せるとして,その前段階である「『この案件は専門家に相談したい』と気付くこと」に対して勘が働くようになることが大きいと思われる.
学習と受検
公式テキストと過去問題集を使用して 2 ヶ月間ほど学習した.
2019-11-17 に受検して 2020-01-07 に合否が通知された.成績は学科が 96%, 実技が 100% だった.学科で自信を持って回答できなかった問題が 1 つあり,まさにその問題が不正解だった.一方で,不正解の問題に関する内容を学科試験と実技試験の間に復習していたことが功を奏して学科試験は満点を得られた.
なお,試験のために鉛筆が必要だったが所持していなかったため文具店を訪れた.学生時代に研究室で「あとから消せるものは証拠にならない.鉛筆で書いた記録は研究不正を疑われても仕方ない.何か書くならボールペンがよい」と指導されて納得して以来長らくボールペンしか使ってこなかったため,鉛筆も消しゴムも持っていなかった.今回の試験のために記用具一式を購入したが,今後これらを使う日は来るのだろうか.
ソフトウェア産業と知財関連法制
資格取得を通じて得られた知識を元に,モノを扱うことが多くない IT エンジニア視点で実務に関連する法制をざっくりまとめると以下のようになる.
実務上の重要度が比較的大きい
- 特許法
- 発明全般
- 商標法
- ソフトウェアの名称
- 著作権法
- ソースコードやライセンス関連
- 不正競争防止法
- 機密情報の取り扱い
実務上の重要度が比較的小さい
実用新案法や意匠法は保護対象が物品に限られることもあり,ソフトウェアの世界において実務影響度は大きくないと思われる.また,民法その他は専門家曰く「法務担当者が知っていればよい」とのことだった.
- 実用新案法
- 意匠法
- 民法
- 独占禁止法
- 条約
- 種苗法
- 弁理士法
このように知財関連法制の地図を頭の中に描けるようになり,実務で「この件では hoge 法の fuga を考慮する必要がありそう」と当たりを付けられるようになったことは収穫と言える.
おわりに
知財の資格を取得したことは業務がきっかけではあったが,自分の専門外の知識を獲得することは教養として楽しいものだった.今後も (資格取得まではせずとも) 同僚が担当している業務について周辺知識を獲得していきたいと思う.